阿蘇
阿蘇 岡田一実 緑雨して深ぶかと昼来つつあり さわさわと咲いてさみどり澤胡桃 青芭蕉雨後の粒だつ風のなか 初夏の水の棚田を鳶の影 汐風の顔に分かれて船薄暑 卯波消え目はその上の岬見る 山涼し葉ざゐを空にひた放ち 若竹の高きところに籜(たけのかは) 緑陰の漏れ日に首の日焼けゐつ 玻璃を打つ簾の端や旅の昼 腕(かひな)いまカークーラーの風当たる 蜘蛛の子の野菊を這つて裏がはへ 夢の阿蘇うつつの阿蘇を青嵐 阿蘇の草ことに涼しく馬もがな 野茨の阿蘇は朝風明らかに 小満の日の面(も)を奔(はし)り火山瓦斯 夏雲の影退きぱつと草千里 翠微いま深山霧島明明と みどりなす外輪山を雨煙 若葉青葉此処は波野で草も波 その花芯仏陀のごとく泰山木 幾筋も風の白雲行々子 粒のなかさみどり差して小判草 花の香が吾(あ)を越え西へ泰山木 疫よけの薬涼しく応へ病む