立夏

 


立夏    岡田一実 
おがたまの咲くや日が闌け紫し 
野田藤やみづのおもてに影が立ち 
さも誰もゐぬ庭に見え花楓 
桜蕊降りそのうへを鳩の趾 
花の名をググり確かに甘野老 
花褪せて馬酔木は紅(こう)のうてなかな 
春雨や墓を見下ろすエレベーター 
蒲公英や茎ぺたんこに花もたげ 
先に漕ぎ横のふらここ奨めけり 
あをき蝿離れて花の要黐 
蝶のぼり地表の影のきは淡く 
小さき虻それごと風の姫女菀 
幾日かは春の五月や川煌き 
みづかげをよく見て蜷の道も見え 
粒やかに蕊の影乗り一輪草 
一輪は蕾さみどり二輪草 
垂れ揺るる宿屋の地味な鯉幟 
騒がしき姿のこゑの雲雀かな 
首輪で引き春の子犬の向きを変へ 
薔薇に屈む日傘ふたつのぶつかつて 
車窓より手の蟻出すや風に当つ 
みづ落ちて立夏交はる広き川 
芍薬やいまし始まる紙芝居 
芍薬の滅多矢鱈の黄なる蕊 
撮らんとせし物を蚊の影過りゆく 

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