月の秋











月の秋    岡田一実  
横雲にかたち消えたる小望月 
雲の端の白し待宵くものなか 
玉葱の煮えし香退り小望月 
一盞のうちに雲消え小望月 
月見の灯小望月とが似た黄帯び 
無月しかしによつと端を見す望の月 
広く照る良夜の雲が畳なはり 
黒雲にひかり細めし望の月 
名月や夜気を深巻く雲明く 
名月や海老のビスクが皿にいろ 
甘味噌のさつと味引く月見かな 
月天心粗と貧しき雲に光(かげ) 
十六夜の雲や雲よと電話口 
十六夜が雲に入りての酒の嵩 
鯖雲のうろこ広ごる十六夜 
世を月に倦む曠世の天才と 
身のうちを躄る感情十六夜 
十六夜を見る吾のかげ壁に確 
雲騒を捨て中天の既望かな 
書きし日がその人にあり十六夜 
裸眼に見まどかと思ふ十七夜 
疫除けのくすり身ぬちに立待月 
疫の世を秋で立待高あぐる 
立待をまへ干す衣をうしろかな 
秋暑しとは立待の高き夜も 
酔のなき腸ほの震ひ立待月 
立待やいま筋肉で立ちあぐる 
居待月冷ゆるシートを額にぴた 
体温のちがふ二人や居待月 
にはとりの骨うずたかく居待月 
臥待のどるんと低し塔の横 
暈がちに黄がちにひかり寝待月 
天わたり惑へる暈の寝待月 
鉄と鉄ぶつかり軋む寝待汽車 
ひと眠り夢見て寝待中天に 
眠剤に視野ゆるびたり十九夜 
魚棚の融けしみづ撒く十九夜 
寝し人と玻璃を隔てて更待月 
うす明けの天を吹く雲更待月 

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