十方 岡田一実




十方     岡田一実 

卯の花や天もしづかに昼の雨 

さつと霽(は)れ風が真昼の河鹿かな 

このこゑの何の鳥だか青時雨 

ゆふさりの汗ばむ首に日傘の柄 

太陽の傾いてゆく青田かな 

名刺得てその名の人のなほ涼し 

赤き藻と流れてゐたる浮輪の子 

しほ辛く泳ぎて島が遠くある 

向日葵の花の裏とは地獄めく 

梔子の枯れて今生枯れ残る 

見えずあらば滝のこゑ蝶のこゑ 

十方を蟬声ありて滝飛沫

このブログの人気の投稿

「写生」というビッグ・クエスチョン 岡田一実

山本健吉が「低調」と評した大正「客観写生」俳句を読んでみた 岡田一実

詩の源郷 大正六、七年の原石鼎 岡田一実